原理【ねじ-5】

この節と次の節では、ねじに働く力についてまとめます。
「ねじは斜面の応用」と言われます。
荷物を斜面に沿って押し上げるという動作は、平面の作図によって
イメージでき計算も簡単です。

この例えは、実際には、おねじを回してめねじにぶら下がった荷物を
引き上げる、という動作に近いでしょう。

また、ねじを回し反対側の面を引いて間にある物体を締め付けるという
いわゆる「締結」動作も同じことです。
その場合は、締め付ける物体を圧縮する力とそれに反発する力が、
荷物の重さと斜面からの抗力に相当します。

ではこの斜面を使ってねじの原理を見てみましょう。

ねじの機能は、上の図のとおり、小さな力で重い荷物を持ち上げる、
または小さな力で強く締め付ける、ということに他なりません。

我々が斜面を歩くときや斜面で荷物を運ぶときは、
力の方向が普通は斜面に沿っています。

したがって傾斜角をφ、目的の方向(この図では鉛直方向上向き)への移動距離を h(m) とすると

d = h/sinφ (m)

の移動距離が必要になります。
一方、鉛直方向上向きに荷物を持ち上げるのに必要な力をM(N) (*1) とすると、

E = Msinφ (N)(kg*m/s^2)

だけの力が斜面方向に必要です。

ただし、実際のねじでは、(レンチによって)加えられる力は
溝に沿った力(この図では斜面方向)ではなく水平方向の力です。

このとおり角度を調整すると、
水平方向に加える力 F と水平方向の移動距離 c は
以下の様になります。(φが小さいのであまり変わりませんが。)

c = h/tanφ (m)

F = Mtanφ (N)(kg*m/s^2)

移動距離と力との積が仕事(エネルギー:J または kg*m^2/s^2)(*2) です。

この値は、斜面に沿って押した場合(Eとdとの積)も
水平に押した場合(Fとcとの積)も共に Mh(J) になります。

また、鉛直方向に持ち上げた場合も同じく Mh(J) です。

楽をして長い距離を押すのも、短い距離がんばって引き上げるのも、
どういう経路を通っても使うエネルギーは変わらないということです。
(ただしこれは原理の一側面であり、実際には支配的な摩擦(後述/次節)を
無視していることに注意してください。)


さて、斜面に置いた荷物は、手を離すとまた滑り落ちてしまうかもしれません。

同様にねじの場合も、回す力(レンチ)を外した途端、
ねじは反対方向にクルクル回ってぶら下がった荷物はやはり落ちてしまうのでしょうか。

実際私達が身の回りでそういった場面をあまり見ることがないのは、
斜面に沿って滑り落ちようとする力よりも最大静止摩擦力のほうが
圧倒的に大きいからです(締結用のねじの場合)。

斜面の傾きφを小さく(ねじのピッチを小さく)することによって、
斜面に沿って滑り落ちようとする力を小さくしているのです。

また、最大静止摩擦力は荷物の重さに比例するので、
荷物の重さによってこの大小関係が逆転することはありません。

これは斜面上の荷物の場合と同じです。


次節では、この摩擦について考えます。

*1)

単位 N(ニュートン):重力加速度を 9.8(m/s^2) とすると、9.8N は地表面で 1kg を持ち上げるくらいの力です。

*2)

単位 J(ジュール):物体を 1N の力でその方向に 1m 移動させたときに使う仕事(エネルギー)の量です。

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